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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1647号 判決

主文

原判決を破毀する。

本件を札幌高等裁判所に差戻す。

理由

職權をもって審査するに原判決は、被告人は、昭和二一年六月五日頃盛清というものから買受けた純度九六パーセントのメタノールを、不注意にも、分析その他の方法で、それがメタノールを含有しないかどうかを鑑別することをしないで--即ち過失により、右飲料のメタノールであることを知らないで、同月六日頃から二七日頃までの間に、小野忠蔵に一升、武田利雄に一升、三浦政治郎に二升を飲用として販賣したという事実を認定して、右被告人の所爲は有毒飲食物等取締令第一條、第四條第一項に該當するものとして被告人に對して有罪の判決をしたのである。しかしながら、同令第一條違反の罪については、當初は過失犯を處罰する規定はなかったのであるが、昭和二一年六月一八日公布された同年勅令第三二五號によって、右取締令第四條第一項に、後段として、「過失ニ因リ同條(第一條を指す)ノ規定ニ違反シタル者亦同ジ」との規定が加えられこの勅令は公布の日からこれを施行されたため、同日以後はじめて、過失によってメタノールであることを知らないで、これを販賣したものも、同令第一條の違反として處罰されることとなったのである。原判決は、被告人の本件メタノールの販賣行為を昭和二一年六月六日頃から二七日頃までの間に行われたものと認定したこと前段説明のとおりであるが、かくては右改正法規施行の前後に亘るのであって、若し右販賣行爲中右改正法規の施行前に行われたものがあるならばその行爲は、行爲時法に照して罪とならぬものと解しなければならない。右販賣行爲が、右法規改正の前に行われたか、その後に行われたかを確定しないで、漫然右改正の前後に亘る期間を摘示して、しかも、これに對して改正後の法規を適用した原判決は、刑罰法規適用の基準となるべき犯罪時を確定せずして、法規を適用した違法あるものと認めなければならない。しかして、この違法は判決に影響すること勿論であるから、各辯護人の上告趣旨について、逐一判斷するまでもなく、原判決はこれを破毀すべきであり、

よって刑訴施行法第二條、舊刑訴第四四七條、第四四八條ノ二に從い、主文のとおり判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎)

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